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「はじめは毎朝自分の支度をして、それからタクシーをつかまえにいって乗るんだけど、つかまらなかったり、雨の日なんか面倒だったんです。マンションのローンもあって車は買えないし。そのうち馴染みの個人タクシーに運転手さんができて、毎朝よっぽどのことがない限りなるべく家の前にいるようにしてくれて、すごく助かりました。まあ、実家の母に預けるので気は楽でしたけどね」
タクシーの送り迎え生活に慣れてきたころ、ゆかりさんのお父さんが胃ガンを宣告される。看病でお母さんがばたばたしている時、保育園などはまったく考えていなかったゆかりさんは急きょ、民間のベビーシッターに子供を預かってもらう。無事、手術は終わったがお母さんの疲労もあり、また、療養がてらしばらく父方の田舎に移るということになったので、母親にはこれ以上頼れないと思ったという。
「料金はかかるけど、今さら保育園を探すには時間がないし、そのまましばらくはベビーシッターに預けて別の方法を探そうと思いました。わたしが小さいころから可愛がったもらっていた隣のおばちゃん(笑)にうちの母が相談してくれて、近所で誰か預かってくれる人がいないか探してもらったんです。けっきょく、地元の人のアドバイスもあって、スーパーマーケットや児童館、地元の信用金庫の掲示板にはり紙を貼ってみました。2週間くらいして(これはけっこうラッキーだったようなんですけど)、はり紙を見たという人から電話がありました。とにかく、一度会ってみようということで、母と二人で会いに行きました。いきなり電話口で年齢をうかがうのはためらわれたので、聞いてなかったのですが、待ち合わせに現れたのはけっこう考えていたよりも若い人でした。なんとなく、私と同世代のような気がしたので聞いてみると、果たして、二つ年上の方でした。まだ、30代前半くらい。面接というのはあまり慣れていないし、根ほり葉ほり聞くのは苦手だったんですが、ここ一番自分の子どもを預けるのだし、ただでベビーシッターをやってもらうわけではないので、心を鬼にして(ちょっと大袈裟ですね)いろいろ質問しましたよ」
もちろん、「ごめんなさい。でも子どもを預けるの初めてなので、ちょっと心配で……」というニュアンスをこめながらの質問だろう。条件が合っても、相手を不快にさせてはこれから気まずくなるから、とゆかりさんは言う。慣れない面接の結果、ベビーシッターさんのこれまでの育児経験、人生経験、人となりがなんとなく見えてきたと言う。自分の育児経験はないこと。でも、短大の保育科を卒業してから7年間、保育園に勤めたこと。体を壊してやむなく退社。数年の療養の後、また、保母さんに復帰したいと思っていて、今回はそのリハビリを兼ねていること。婚約者がいて来年、結婚する予定だということ。今は、実家に住んでいるということなど。
「本当に失礼だと思ったんですけど、何の病気だったかを聞いたんです。普通は相手が言わない限り、あまり聞きませんよね。でも、その方はもっともだという感じで素直に答えてくれました。十二指腸潰瘍だったということよりも、その答えている様子がとても素直に感じられたので、この人は大丈夫だと思いました」
しばらくは、ゆかりさんのお母さんもまだ実家にいたし、週のうち三日くらい子どもを預けて徐々にお互いが打ち解けていった。雇用関係というより友だち同士みたいになってゆかりさん自身、会社の悩みごとの相談にのってもらったという。しばらくして、ベビーシッターの彼女も職場に復帰する自信ができたのか、そろそろ保育園に戻るということになって、彼女にベビーシッターを頼めなったが、やはり元職場の同僚などに聞いてくれて、新しい数人のベビーシッターさんと知り合うようになった。
「けっこう、どこかのシッター会社に登録しないで、口コミでやっているベビーシッターさんがいるんだなと思いました。私は偶然いい人に巡りあったけど、でも、次にもし同じ状況になってもちゃんと探せる気がします。面接のコツも飲み込めたし、やはり大事なわが子を預けるとなると自然と慎重になる。私は今まできちんとしたシッターさんに出会ったけど、もし、最初の人で納得いかなかったら、迷わず次を探すと思う。いいんだけど、なんとなく引っかかる。という時は焦らずにその間民間のベビーシッターさんに預けてでも納得いく人を選んだほうがいいと思う。もちろん、それでも外れることはあると思うけど……。でも、まあ、母は強くなくっちゃね」
自宅で仕事をしながら、育児に専念するようになったのはなぜ?
「ちょっと、体調をくずしまして。主人の提案もあってしばらく主婦業に専念してみよかと。なんて、ちょうど車を買ったんでベビーシッター代もままならないということもあったんですけどね。今は、パソコンを使えばけっこう自宅ででも、編集作業ってできるんですよ。あと、娘が続けて病気したので、自分の療養も兼ねてしばらくはそばにいてやろうと思ったんです」
近々、もうひとり子どもさんを作る予定だそうで、今度は公立の保育園の資料などを眺めて、第2子割り引きで安くて、いい保育園を探しているそうだ。
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