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はじめは比較的若い男性が対応してくれて、ずいぶんと親切にいろいろと教えてくれたので内心ほっとしたという。「とても、5時や6時には保育園に迎えにいけない」と話すと、保育園プラス保育ママや延長保育をやっているところなども教えてくれた。
「両親とか、親戚におどされてたんですよね。世間の目ってヤツがいちばん辛いんだからって。でも、いきなりイイ人にあたってラッキーって。けっこう、この国も捨てたもんじゃないって思っちゃって(笑)。ホント、なんかあたしって日本国民なんだなあってちょっと思ったんですよ。大袈裟だけど、日本人で、たまたまその地域に暮らしてるからって、その地域の自治体に援助してもらえるわけでしょ。なんか捨てたもんなじゃいッて気分でその日は終わったんですよ」
その日はね、ともう一度みさ子さんはくり返した。申請書はすんなり受けとられた。しかし、後日調査官が家にやってきた時のその態度にみさ子さんは「やっぱりな」と思ったという。
「ドアを開けたとたんに、文字どおり、頭のてっぺんから足のつま先までじろじろ見られました。60歳位の女性であきらかに未婚の母に一言あるという感じ。うわっ、これかと思いましたよ。世間の冷たい目。後ろ指ってヤツ(笑)」
家の中を細かくチェックされ、未婚の理由など根ほり葉ほり聞かれた。みさ子さんからはそれがそのオバサン調査官の興味なのか、本当に必要な質問なのかは判断できない。審査をなんとか通過するためにはそのオバサンの調査報告が要になるはずだ。しかたなく、実にプライベートなことまで答えたという。
「でもね、どうせならと思ってけっこう誇張して話しちゃった」
いたずらっぽく笑いながらみさ子さんは言った。どうせ細かいところは分からないだろうから、ちょっと可哀想さを演出して、やむを得ずシングルマザーなのだとうことを強調したという。なかなかのツワモノである。
「それから、上京中の母にも来てもらったんです。わざとらしく途中からね。演出がこってるでしょ? もう本当にこんな子に育っちゃったのは、あたしの責任なんですってしおらしい感じが効いて、その調査官のオバサンもけっこう最後には同情的になってましたよ。あれ、こんな話でいいんですか?」
お知り合い同士のコミュニティでベビーシッターを見つけたってお伺いしているんですけど……と切り出す。
「それで、保育園のほうは演出の甲斐あってか、家の近くで公立の保育園に入れたんですが、保育園は5時まで。その時間には迎えにいけないんですよね。仕事場ではまだ若手のほうでそんなにわがまま言えないし。とりあえず、ベビーシッターさん頼んだんだけど、週6日じゃけっこうな出費なわけです。母に頼めばいいんでしょうけど、実家は青森だし、ただでさえ親に心配かけてんのであまり頼りたくないなあと思って。休みの日に駄目もとで、スーパーとか公民館とか銀行とかの掲示版にシッター募集の掲示を出してもらいに行きました。でもね、そううまくはいかなかったですね。近所のスーパーはそういう掲示板はありませんて言われましたし。外国人が多く利用しそうなところならベビーシッターの掲示ってあるらしいんだけど、コテコテの日本のスーパーじゃあ、反応がにぶいんです。断るとか断らないとか以前の問題。そういう依頼を不思議そうに聞いている。掲示版に貼らせてくれたのはけっきょく信用金庫だけ。信金は地元に根付いてるんで融通を利かせてくれたんです。あとは銀行にしてもシステムの末端だから、勝手なことはできないしなんか面倒はさけるみたいな感じ」
けっきょく、掲示版に出してみたものの連絡はなく、みさ子さんは美容院のお客さんが紹介してくれた保育科の学生さんに頼んだという。
「あまり、仕事場にそういう話を持ち込みたくなかったんですが、先輩が気をつかってくれてさり気なく、親しいお客さんに聞いておいてくれたんです。はじめは、なんか変なプライドがあって、ちょっと卑屈な気分になっちゃったんですけど、来てくれた女の子がとてもいい子だったし、お金も本職のベビーシッターさんの3分の1とまではいかないけど、半分以上は少なくてすんで、今では感謝感謝です(笑)」
プライドも大切だけど、人の親切は素直に受けようとも思ったという。
「1人では生きていけないですものね。それは、未婚だろうがなんだろうが同じだと思うけど」
ちなみに、ずいぶん経ってから、ベビーシッターの掲示を出してくれて信用金庫の店長さんから連絡があったという。知り合いにあたっていてくれたようだ。
世の中、まだまだ捨てたもんじゃないので、最初からあきらめないというのが、このインタビューで得た教訓だろうか。
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