eSampoおすすめ度 :緒方拳の円熟味溢れる演技が心にしみる     |
「人生の再生」を賭けた旅物語に感動の涙が溢れる
奥田 瑛二が『少女〜an adolescent』('01) 『るにん』('01)に続いてメガホンを取った3作目は、幼児虐待や自殺といった社会問題をモチーフにしています。と言うと一見、重苦しい雰囲気を連想させますが、初老の男と少女が心の絆を紡いでいく過程に、ジワリと感動の波が押し寄せます。エンディング・テーマは、UAが歌う井上陽水の名曲『傘がない』。映画との相性が絶妙です。
緒形 拳演じる元教育者の安田 松太郎は、アルコール依存症で妻を亡くし、一人娘とは絶縁状態にあります。円満な家庭を築くことができなかった罪の意識。ある日、アパートの隣の部屋で、母親から虐待を受ける5歳の少女・サチ(杉浦 花菜)を救い出します。そして、松太郎は記憶の中にある山の頂上を目指し、サチと2人で旅――“長い散歩”に出るのでした。松太郎にとって、ボール紙で作った天使の羽を背中にまとうサチの存在は、まさしく天使。一方、サチは松太郎との交流を通して、閉ざしていた心の扉を少しずつ開いていきます。これは2人の「人生の再生」を描いた作品なのです。
ストーリーに沿ってシーンを撮影する「順撮り」という手法を用いる監督のこだわり。それが、俳優の演技を物語の進展とともに、より味わい深いものにする効果をもたらしています。緒形 拳は、監督の期待に応えるか
のような円熟味溢れる演技を見せ、その存在感を放ちます。最も印象深いのは、人通りの多い街中で泣き崩れるクライマックスシーン。台詞はなくても、観る者の感情を大きく揺さぶる名演です。それにしても、69歳という年齢を感じさせないフットワークの軽さには脱帽してしまいました。少女を追いかけて全力疾走する姿に、思わず拍手!
血が繋がっていても、心が繋がっていないという寂しさ。相手を理解しているつもりが、身近すぎる存在であるが故に見えなくなってしまうという怖さ。祖父と孫ほどの年齢差があり、血も繋がっていない松太郎とサチが心を通い合わせる姿に、改めて“家族のあり方”を考えさせられます。
「長い散歩」
監督/奥田瑛二(『少女』『るにん』)
出演/緒形拳、高岡早紀、杉浦花菜、松田翔太、原田貴和子、木内みどり、津川雅彦、奥田瑛二
配給/キネティック |